ご家族についての相談
ご本人には問題の自覚がないか来談を拒むなどしている場合、その周りの方が相談にお越しいただくだけでも解決していくことがあります。まずは、お越しになることができる方がいらしてください。
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認知症・認知症前段階(MCI)
寿命の延伸にともなって、認知症の患者さんも増えてきています。認知症には発症の原因によっていくつかの種類があり、その代表例がアルツハイマー型認知症で、全体の約67%を占めているとされています(厚生労働省老健局『認知症施作の総合的な推進について』より)。原因は脳内にアミロイドβという異常たんぱくが蓄積することだと考えられていて、遺伝的な要素も関係しているとされています。残念ながら発症してしまうと回復が見込まれる治療法はなく、発症するもっと前からすでに脳内では異変が起きているとの仮説が有力です。そのために現在では、予防医学の研究が進めらてれています。
アルツハイマー型認知症の最初期には「非常に軽度の認知機能の低下」が見られます。認知症前段階(MCI)と呼ばれるものです。「なんとなく空気が読めなくなった」「反応が鈍くなった」などの社会性の低下が特徴ですが、この段階では医療機関などでも確定診断に至ることは多くありません。しかし、日常をともにしているご家族は最初期からその異変を感じているようです。やがて症状が進行していき「軽度の認知機能の低下」が見られるようになると、徐々に記憶障害が目立っていきます。
・対応について
ご家族の誰かが認知症を発症した場合、ご本人の治療とそのご家族のケアが大切です。ご本人は医療機関で少しばかり進行を遅らせるための薬物療法を受け、場合によってはデイサービスなどの介護保険施設の利用も選択肢に入ってくるでしょう。日々をたのしく送ってもらうことが何よりも重要です。
一方でご家族の場合は、大切な家族が「変わっていく」ことへの準備が必要になることもあります。家族が家族であるのは、記憶によってつながっているからです。その記憶が途切れていくという過程に立ち会うのは、想像以上に悲しいもので、家族の在り方が否応なしに変わらされてしまう事態に直面します。その悲しさを口にしながらも過去の思い出に浸る時間を重ねていくことが大切です。そのためには、話せる場と聴き手が必要になります。
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嫁姑・舅との問題
「義母が毎日訪ねてきては、頼んでもいない大量の品々を勝手に置いて帰っていく」「どんなに夫が悪い状況でも『あんたが悪い』と罵倒される」「夫は義母の味方ばかりして、何だか気味が悪い」「義母の家はゴミ屋敷なのだが『孫を連れて来い』と言われて困っている」
こうした嫁姑問題は、嫁側に本来は不必要で過度なストレスを与えます。
・カウンセリングについて
異常なまでの嫁姑問題は、姑側に何かしらの精神科的問題が隠れている可能性が高い問題です。最も頻度が高いのは、軽度知的発達症〜境界知能があり、これによって「感情のコントロール不全」「共感性の欠如」が起きている場合です。
なぜ「嫁と姑」の問題なのかというと、上記のような精神科的問題によって、姑側の心理発達がやや未熟な段階でとどまっているのが原因で、言い方が悪いですが、小学校低学年の女の子が新しく転校してきた女の子をイジメているような状態になってしまっています。この問題の特徴は、姑は男性には甘く、女性には意地悪を働くという構造があります(なので、嫁姑問題です)。そこまでいかなくても、話が通じなくて困っているというだけの場合もあるでしょう。
お姑さんの発言や行動を細かく聞き取って、その理解と対応をお伝えします。その次にご相談者本人のカウンセリングに進むこともあります。義両親との向き合い方をじっくりと考えていくと、落とし所も見えてきます。
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ひきこもり
『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』によると、ひきこもりは「さまざまな要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」とされています。「さまざまな要因」とありますが、考えられるのは統合失調症などの精神障害、知的発達症や自閉スペクトラム症などの発達障害、親子関係の問題などです。
・対応について
ご家庭での様子を慎重に聞き取ったうえで、背景に統合失調症などが考えられる場合には医療機関の介入が必須です。また、発達障害が考えられる場合には、福祉サービスの導入を検討すべきでしょう。しかしながら、こうしたことはすでに手を尽くしているご家族も多いので、いままでの方法に問題がなかったかを改めていっしょに検討していきます。
親子関係に何らかの問題がある場合は、これによって親子の状態が「膠着」し、子の側が動けなくなってしまっています。お子さんが欲しい声掛けや理解を探していきます。
すでに親御さんが存命ではなくなっている場合、そのご兄弟・ご姉妹・ご親類からの相談も可能です。
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配偶者(パートナー)によるDV
男女共同参画局によると、DV(Domestic Violence)は「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味だと紹介されています。その原因ですが、暴力を振るう側に精神科的問題や、原家族での未解決問題がこじれているなどの場合があります。
・対応について
暴力のきっかけとその後の経過をなるべく詳細におうかがいします。脈絡があるのか、それとも場当たり的に暴力が散発されているのかを鑑別するのは非常に重要で、対応の方法が異なるからです。これを鑑別できてからは、なぜこの配偶者(パートナー)を選択したのかのカウンセリングに進むこともあります。そこに「人と人とがいっしょにいる理由」が隠されています。配偶者選択の動機を考えていくと、かかえてきた人生の課題そのものが見えてくることもあります。
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介護問題
どのような家族でも親の介護には苦労が伴うものですが、稀に相当な困難を伴う場合があります。それは「通常の」親子関係ではなかった場合です。介護は、親と子の関係のスムーズな逆転が必須です。親が子になり、子が親になります。しかし、親子に何らかの問題があると、この逆転がスムーズにいかず、子の側に大きな負荷がかかることがあります。「ちゃんと介護したいのに、できない」などの気持ちが出てきて、追い込まれてしまいます。
・カウンセリングについて
介護する側にとって、どのような親だったのかを細かくおうかがいします。親への気持ちが自覚化できてくると、こころの距離も保てるようになります。目標は、すべて自力で介護しようとせず、ある程度「他人任せ」にできるようになることです。
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夫婦問題
配偶者選択には、実は思っている以上に原家族(生まれ育った家族)との間に残してきた課題が影響しています。たとえば、常に父親に気を遣ってきた女性であれば、夫に気を遣い従ってがまんし続けてしまうかもしれません。母親から冷たくされてきた男性であれば、女性関係に何らかの問題をかかえ、それが妻との間にも形を変えて起きているかもしれません。
ここで述べたのは一例ですが、こうした背景が見えてくると、なぜこの配偶者を選んだのかの本質的な理由も見えてきます。心理的な側面から見る配偶者選択は、自分の生き方を補強してくれる相手を決定する過程だからです。
一般的に人を「好き」になるのは自分にとって安心できる存在だからですが、原家族に大きな課題を残していると、歪な関係であることが安心するという「生き方」の逆転現象が起きてしまいます。それが大きくなってくると、最初のきっかけとして夫婦問題が自覚されます。
・カウンセリングについて
まずはていねいに、どのような問題が起きているのかを聞き取ります。それから「好き」の意味を考えていきます。これが見えてくると、配偶者選択の動機もわかってくるので、夫婦関係の全体像も明らかになってきます。そのうえで、どういう関係を目指すのかを考えていけばよいでしょう。きっかけそこ夫婦問題ですが、どのような生き方をしていると安心するのかというテーマに及ぶこともあります。