top of page

​働く人のメンタルヘルス

 日本の精神科医療では、こころの悩みに対して薬物療法が主体となっていますが、基本的にこれは対症療法であって根本療法ではありません。もちろん、お薬の力を借りることも大切な時期があるのですが、それにくわえて心理療法を行うのも同じくらいに大切です。再発しないためには欠かせません。以下の症状は精神科・心療内科やカウンセリングの場で扱う一例です。これに当てはまる場合もありますし、当てはまらない場合もあり、必ずしも断定はできませんが、いっしょに考えていきましょう。

​うつ病

 出社するのが憂うつ、朝から気分が沈んでいる、寝つきが悪い、深夜や早朝に何度も目が覚めて深く眠れない、食欲が落ちて体重が減った、身体が鉛のように重く感じる……。

 以上は、うつ病の典型的な症状です。この病のつらいところは、症状が出ていて疲れ切って身体が動かなくても、どうにか仕事をこなそうとしてしまうところです。しかし、頭に靄がかかったように思考能力も落ちているので、仕事の効率は落ちています。それでミスが続き、周囲から指摘され、さらに自信を失くしていくのが苦しみです。

​・カウンセリングについて

 なぜ、うつ病にまで至ったのかの経緯を、しっかりとうかがいます。ここに「考え方の癖とそれに伴う行動」の一連の流れが隠れています。

 ある意味で、うつ病は、これまでの考え方では無理だというサインがこころから発せられているかのようです。その証拠に、きちんとそのサインを受け取り理解していけば、自然と考え方も生き方も変わっていくので再発はしません。うつ病の治療にカウンセリング(精神療法)は、とても重要です。

※うつ病の「中等症」以上だと判断した場合は、まずは医療機関での薬物療法をお勧めすることもあります。

2

​職場復帰について

 職場復帰を焦る人ほど、働いていないことに罪悪感を抱いています。そして、復職直後から「がんばり過ぎて」しまい、また休職してしまう人も少なくありません。なので、どうして仕事を休み続けることになってしまったのかの原因を、なるべく解決しておく必要があります。

・カウンセリングについて

 職場復帰に際する不安や悩みを、じっくりとうかがいます。その過程で休職していること自体への後ろめたさから、きちんと休むことができていなかったご自分の姿も見えてくるでしょう。

 どのような職場環境だったのか、どのような人間関係だったのかを、客観的に把握して評価していくのは大切です。本当に働き続けるべき職場なのかもわかってくるからです。休職は復帰するためだけではなく、働き方や人生を見つめ直す期間でもあります。

3

​燃え尽き症候群(バーン・アウト)

 正式には反復性うつ病と呼ばれ、人生の中で複数回、うつ病を繰り返してしまうものです。早い人では中高生ごろから最初の発症が確認されることもあり、がんばって、疲れて、気力でなんとか奮い立ち……ということをしています。四六時中、緊張して、なんとか踏ん張っているので、それがふとしたきっかけで途切れてしまうと一気に動けなくなってしまうのも特徴です。

 うつという気持ちの落ち込みもあるのですが、徒労感・焦燥感・罪業感・イライラという表現のほうが、ご本人たちはしっくりくるようです。慢性的な不眠も見られます。けっして大袈裟ではなく、燃え尽き症候群を患う人は休み方を知らない人が少なくありません。憑かれたように働くこともあり、ワーカーホリック気味なこともあります。それゆえ、疲れていても働く・活動してしまうなどして、いつまでも疲労と消耗が心身から抜けません。

 

・カウンセリングについて

 まずは、ある程度の休息が必要で、仕事の内容や生活状況を見直す作業は必須です。なぜ休むことができないのかの環境的な理由を、いっしょに考えていきます。

 それからカウンセリングに進み、心理的な側面から燃え尽きてしまった理由を見つめていきます。そこでは主に家庭環境を整理していきます。燃え尽き症候群を患う人は生まれ育った家庭で孤立しており、愛着(アタッチメント)の問題も同時に抱えている率が高いからです。愛着を簡単に説明すると、人に頼ったり甘えたりすることです。これがうまくできないので、仕事を断れず、ちゃんとできていない自分を許せず、結果的に休むことができなくなっています。また、子どものころから孤立しているので満足感というものに確たる感覚がなく、それがために、空虚を埋めるかのように過活動になっているという背景もあります。それらが見えてくると、そうしていないと自分の存在を保てなかった人生も明らかになってくるでしょう。

 こうした全体像がわかってくると、自己受容できるようになります。すると、自分を慈しむような気持ちも生まれてきます。ここまでくると、もう動けなくなるまでがんばることもなくなり、燃え尽き症候群は治癒しています。

4

​大人の発達障害

 一般に理解されている「発達障害」は、実は行政政策上の区分で、精神科の基準に従うと代表的なものは次の4つです。

 ❶知的発達症(知的障害)

 ❷注意欠如多動症(ADHD)

 ❸限局性学習症(LD)

 ❹自閉スペクトラム症(ASD)

 それぞれに特徴的な症状がありますが、多くで共通するのは「対人コミュニケーション障害」が起きていることです。たとえば、抽象的な指示をされても理解できないなど、その場の流れを読む能力に課題があるとされています。周囲からは、あたりまえのことなのにわかっていないと注意されてしまうので、徐々に自信が失われていきます。しかし、仕事はきちんとやらなければならないというプレッシャーから、ますます焦ってミスが起き、どんどん自信が失われてしまうのがつらいところです。

 

・カウンセリングについて

 どのような症状でお困りなのかを、しっかりとうかがいます。そして、正しい疾病理解をお伝えします。症状によっては薬物療法が大切なときもありますが、これ自体で「対人コミュニケーション障害」が改善されるわけではありません。そのうえで、どうしたらよいのかをいっしょに考えていきます。

 発達障害が治癒することはありませんが、支持的精神療法によってある程度、自信を取り戻して落ち着いた暮らしをしていくことは可能です。「大人の発達障害」で悩まれている方は、総じて緊張と焦りが強いようで、そのために「あたふた」してしまい、仕事でうまくいかないことが起きているようです。気持ちを話すことによって、少しずつ落ち着いていくことができます。

​©︎2022-2025 汐見カウンセリングオフィス

bottom of page