子育て・子どもについての相談
子どもを産んでから人生に悲観してしまう、子どもの言動が理解できないなど……。これらには、親側と子側のどちらかに(または双方に)、特殊な心理状態が起きていることもあります。一概には言えませんが、親側に原家族(生まれ育った家庭)での未解決問題があったり、親の問題を子が引きずっていたり、または子に発達障害が隠れているなどです。
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産後うつ・育児不安
出産前から子どもが産まれてくることに対して不安感が出てきます。自分は母親になれるのだろうか、子どもを愛せるのだろうかと、悩んで気分も沈んでいきます。子どもが生まれると、数時間おきに泣き声で起こされて、また授乳もせねばならず、全体的に睡眠時間も減っていきます。育児と家事を「完璧に」せねばならないという気持ちがあることもしばしばです。やがて出産前から続いていた不安感が悲観へと変わり、本気で子どもを育てることはできないと思い始めるようになります。しかし、子どもは母親の世話を必要としています。また、必死でお母さんを求めてきます。「我が子なのに」近寄られると逃げたくなり、得体の知れない生き物が近づいてきたと怖く感じ、子どもを殺してしまうかも知れないと追い詰められることさえあります。
この特殊な心理は周囲から理解してもらうのが難しく、育児放棄(ネグレクト)とも受け取られかねない状況になることもあります。一時的に子どもをショートステイなどに預ける、抗うつ薬を処方してもらうなども必要になることがあります。
・カウンセリングについて
まずは、懸命に子どもを世話しようとしていることを認めていきます。次いで、原家族(生まれ育ってきた家族)との関係にも目を向けていきます。子どもの世話は、子どものころに親に甘えてきた経験を活かす必要があります。泣いたときに慰めてもらったり、困ったときに助けてもらったり、気持ちを受け取ってもらえた体験があるのかを振り返っていきます。こうした体験が乏しいと「泣く・甘える」などしてくる子どものことを拒否したい気持ちが出てきてしまうからです。それをあえて専門的にいうと、愛着体験が乏しいので子どもから愛着を求められると、どうしたらよいのか困り果てて追い詰められてイライラしてしまうというのが産後うつの正体です。産後うつとまではいかなくても、親になってからの子育ての不安や困りごとは、こうした「愛着の否認」が関係していることが少なくありません。子どものころから独りぼっちで生きてきた姿が、そこにあります。
こうした原因が見えてくると、愛着が復活していきます。愛着が自分の中に湧き出てきたので、子どもからのそれも受け取れるようになります。やがて自然に、子どもへの気持ちも柔らかいものへと変化していき、産後うつは治ります。
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反抗期
子育てにおいて悩みが深まるタイミングはおおむね決まっていて、お子さんが第一反抗期(イヤイヤ期)か第二反抗期(思春期)にあるときです。それぞれ反抗期というくらいですので、子どもは親の生き方に反発してきます。その反発を強く否定もしくは拒絶してしまうと、第一反抗期では激しい癇癪、第二反抗期では不登校・家庭内暴力・非行などにつながることもあります。反対に、言いなりになり過ぎていてもよいわけではなく、かえってお子さんの要求がエスカレートしてしまうこともしばしばです。こうした緊張状態の続く親子関係が固定されると、ときにお子さんの側に神経症状が現れることがあります(小学校低学年ごろでは抜毛症やチック、中学生ごろには長引く軽症うつなど)。ですが、原因は親子間の緊張にあるので子どもへの治療だけでは不十分で、親カウンセリングが大切です。
・カウンセリングについて
まずは、どのようなことをお子さんが訴え、そしてなぜその訴えが大きくなっているのかを確かめていきます。直近の大きな親子喧嘩の内容を聞き取ると、ここに親子の緊張が凝縮されています。
子どもの反発の多くは、親から「ある決まったメッセージ」が発せられているときに起きています。たとえば「がまんしなさい」「いい子でいなさい」「勉強はやりなさい」など、「〜すべき」という親の人生観を強く伝え過ぎてしまったときです。それにお子さんは反発しています。しかし、こうした親側の人生観は永年かけて培ってきたものなので、このあたりまえのことに対してなぜ子どもが反発してくるのかの気持ちが見えません。親が子どもの反抗を否定・拒絶してしまうのは、親が信じている生き方を根こそぎ否定されているように感じてしまうからです。子の反抗期は、親の生き方に修正を迫っているの時期だとも言い換えられます。
カウンセリングでは、親御さんの気持ちをおうかがいします。お子さんに対する否定的な気持ちも肯定的な気持ちも、言葉にしながら確認していきます。
そのときのふとした瞬間に、お子さんに対する本音が出てきます。「親に対して、あんな態度ができて羨ましい」「自分は親に、反抗なんてできなかった」などです。こうして、ご自分の本音に気がつくと、お子さんの本音にも気づけるようになります。親側が本音を隠してがまんしていたので、お子さんにもがまんを強いてきたのだとわかってきます。そうして本音が言い合えるようになると、親子の間でがまんが少なくなり、間も無く膠着した関係も雪解けを迎えます。大切なのは、互いの本音を聞けるようになることです。
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子どもの発達障害
一般に理解されている「発達障害」は、実は行政政策上の区分で、精神科の基準に従うと代表的なものは次の4つです。
❶知的発達症(知的障害)
❷注意欠如多動症(ADHD)
❸限局性学習症(LD)
❹自閉スペクトラム症(ASD)
これらは生まれつきの中枢神経系の不具合によって生じているので、子育ての仕方やしつけの問題ではありません。障害の程度が「中等度」ほどだと、小学校就学前には気づかれて適切な支援に結びついていることも少なくないのですが、「軽度」だと知能検査にも反映されず、そのために見落とされていて学校などでトラブルが起きていることもあります。能力以上のことを求められて「不適応」が招かれているからです。
・対応について
まずはお子さんの様子をしっかりとおうかがいし、そのうえで真に発達障害だと見立てられる場合には、正しい理解と対応をお伝えします。そうすることで「不適応」が解消され、やや落ち着いた日常生活を送ることも十分に可能だからです。これを「環境調整」と言います。
しかし、それでも問題が解消されない場合には、また別の要因も検討していきます。発達障害のように見えてしまう行動を、どうしてお子さんがしているのかです。この場合、親子関係の調整で解決していくこともあるので、親カウンセリングへと進むことになります。
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不登校
不登校には学校でのトラブルや教員との相性などが問題となっていることもありますが、その背後にはこころの悩みや発達障害が隠れている可能性もあります。お子さんが、学校に行く時間になってどのような態度をとるのか、日中や休日はどのように過ごしているのかなどを丁寧に聞き取って判断していきます。不登校の場合、お子さんが自らそのことを相談しにくるのは稀です。したがって、ご来談が可能な親御さんからお話をうかがいます。
・対応について
お子さんにこころの悩みがあると判断できた場合は、親カウンセリングへと進みます。
一方で、発達障害があると考えられた場合は、その正しい理解をお伝えしていきます。
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子どもの奇異な行動(素行症/素行障害)
小動物を解体している、それを咎めてもケロッとしていて、また繰り返す。学校で同級生に危害を加えたが、その理由が「死ぬところを見てみたかった」などと言い、興味や言動の範囲が社会的に逸脱している……。
こうした言動が幼少期から確認できる場合、素行症という疾患の可能性があります。この子らは知能が高いことが多く、しかし言動がおかしい様子から、専門家ではないところへ行くと自閉スペクトラム症と言われることがあります。しかし素行症は、人に対して興味関心が向き、実際に危害を加えたい欲求がある点が自閉スペクトラム症と大きく異なります(自閉スペクトラム症は、人に対して無関心なことが多い)。
・対応について
この疾患は遺伝子に原因があり、養育環境や子育ての内容とは一切関係がありません。センセーショナルな少年事件には、こうした疾患が関係していることがあります。その報道のされ方は「親に甘えられなかったからでは?」「親子のコミュニケーションが取れていなかったのでは?」などと、一般的な目線で議論されますが、こうした「普通の」こころの動きによって起きる事件とは一線を画しています。素行症が疑われる場合、まず親御さんは、このことを理解する必要があります。
また根治は難しく、お子さんは専門機関での治療を、親はお子さんを理解することと、こころの整理が必要です。専門家との協働は欠かせません。